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昔からそうだった。
奈緒は自分がどれだけ
非凡な容姿なのかをわかっていない。
俺らが住んでいる町は都会でもなく、
でも田舎とも言えない、
中途半端なところで。
電車にのれば一時間で都会にも
田舎にも行ける、中間地点のような場所だった。
そんな町で奈緒は幼稚園に入った辺りからすぐに有名になった。
“天使のような美少女”として。
そんなに騒がれているのに
奈緒の母親は今時の母親のように
テレビに出そうとはしなかった。
周りが勧めても、上手くスルーするように
ただ、笑顔を見せて話を聞いているだけだった。
俺も子供なりに、“テレビの中”という世界に憧れを持ったこともあった。
だから奈緒の母親が何故、
その世界に奈緒を行かせないのか謎だった。
ある時、俺は源司と聞きに行った。
奈緒をテレビの世界に行かせないのはどうしてなのか、と。
奈緒の母親はビックリした顔をしていたけど、
俺たちに目線を合わせるように
わざわざしゃがみ込んで話してくれた。
「そんな風に奈緒のこと思ってくれて
…ありがとうね。
でもね、おばちゃんはね、
今、奈緒がやりたいことを自由に
やらせてあげたいの。
奈緒がテレビに出たいって言ったら
それはもう母親として、応援するわ。
でも、奈緒はそれを今は望んでない。
汰樹くんと、源司くんと遊ぶのが楽しいんだって!」
そう言って微笑んだ顔は
今の奈緒そっくり。
まさに、女神だったのだ。
その時の俺は、
奈緒が俺達と遊ぶのが楽しいと言ってくれているのが嬉しくて、
それ意外深く考えなかった。
でも、今の奈緒を見て思う。
奈緒が外見も、内面もまさに女神に育ったのは、
奈緒を本当に心から大事に育ててくれた、
母親という存在があったからなのだと。
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