8人が本棚に入れています
本棚に追加
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「行ってきま~す」
「おはようございます~」
夏休みも今日で終わる8月31日午前8時。
人々の往来が激しい堺市の住宅街の一角で、出勤前のサラリーマンの溌剌(はつらつ)とした声や、御近所同士の挨拶が心地よく響く朝の光景。
「298、299、300…」
その中でも、サッカーボールを蹴りながら、リフティングの数を数える黒髪短髪の少年の姿も決して珍しいものではない。
「精が出るね、和良君」
不意に彼の姿が目に入ったのか、青年のサラリーマンが彼に話しかける。
中学生くらいの少年――中山和良はリフティングを一旦中断して、彼の方を振り向く。
「いやあ、俺なんかまだまだッスよ~」
そして、誉められた事を意識してるのか、顔を赤らめながら元気な声で返事を返す。
「ハハ、堺市一番のストライカーなんだから、もっと自信もっていいのに」
青年は彼の素直じゃない面を知りつつ、彼を出勤前がてらに弄って遊ぶ。
しかし、青年の言っていることに嘘偽りはない。
現に彼の通っている桜恋中学校サッカー部は、この前の夏の大会で近畿大会ベスト4までいっている。
そのサッカー部に彼はこの前までエースストライカーとして、出場していた。
右足から放たれる豪快なシュートで数々のゴールを決め、桜恋中を導いた立役者でもある。
そんな凄い彼なのだが、しかし、実態は…
「お、俺が堺市一番のス、ストライカーなわけありませんじゃないですか!!
もっといいやついますよ!!」
その事実に照れつつ、テンパって否定するという素直じゃない年頃の中学生である。
最初のコメントを投稿しよう!