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時は戻り校内を徘徊中の春香。
サバイバルナイフの血を拭い布で刃を覆い隠しジャージのポケットに入れ、その上からジャケットを被せ見えないようにする。
それにしても広いな。
春香は二階西階段の踊り場にいる。
この中学校は思ったより広い。まるで永遠に見えない出口を目指しているように感じる。
そして春香は思い止まったようにフッと立ち止まった。
あんなに頑丈に封印していたのに、こんなにも簡単に出てくるなんて。
手を見て笑ってしまう。
綺麗に洗えたはずなのにまだ汚れている感じがする。
そこなしか鉄の匂いもする。
この匂いにつられB・Jが牙を剥き出しに今にでも出できそうで身震いが起こる。
ここは危険だ、早くここから脱出しないとな。
去年、亡くなった春季との約束。
『あなたは危険過ぎます。ですから必要以上にB・Jを出してはいけません。もし幸せがほしかったらですけどね。』
『幸せ』。それはあの頃の春香には分からなかった。しかし大切な春季が殺された日、分かった。
春季がいること。春季と食事すること。春季と話をすること。春季と笑うこと。
それが幸せだったなんて。
春季が死んだ日、ようやく気付いた。気付いた時には遅かった。
涙を流し、帰ってきてほしい。と願った。
死体は誰かわからないほどの真黒焦げになっていた。春季だとわかったのは歯の照合。
歯医者のカルテと照らし合わせたところ春季と合致。
春香たちには親戚はいなかった。だから友達しかいない少人数の葬式になってしまった。
「ははっ・・・。行こう、今更後悔したって・・・。」
遅い。
いつの間にか止めていた足を再び前へ歩き出す。
奥には闇しか見えない。
まるで春香の人生を予知しているかのように。
まだ明るい時間帯だというのにこの島は暗い。
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