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それぞれ自由な行動をしている。
スマホでパネルをタッチしている者、ハンカチで汗を拭いているサラリーマン、音楽を聴いている男。
僕も何かしていよう。と取り敢えずポケットに入れといた携帯を見る。
液晶画面には姉の笑顔を待ち受けに。
右端には時刻が映し出されている。
残り一分数十秒で十時。
画面が10:00分になると同時にクルーズ客船から白いスーツを着た男三人が出てくる。
「皆様、そうこそ『paradise<楽園>』へ。先ずは渡されたカードを我々に見せて頂き、その後クルーズ客船に乗って頂きます。」
白いスーツの男たちは横三列に並び、三人ずつ並んでいく。
春香は右側の列に並ぶ。
春香は右側の二番目。一番前のサラリーマン男が終わると今度は春香の番。
ここで首を絞めて窒息させようかと思ったが人がいると見ているその人まで殺さなくてはならない。
あんまり仕事を増やしたくないのもあるが、必要以上に殺したくないという気持ちが大きい。
黙ってカードを渡し、クルーズ客船に乗る。
中はあまり広くはない。
木の横長椅子をつけたくらいしかなかった。
電車のような座席を想像してもらえればいい。
まぁ、見た目もあまり良くなかったからこんなもんか。と適当に感想を述べた後、一番後ろが空いていたのでそこに座る。
それにしても、と春香は辺りを見渡す。
『paradise』とは一体。
分からないことが多すぎる。
先ず、『paradise』とは?意味は楽園。
次にこのクルーズ客船はどこに行くのか。このサイズだからあまり遠くには行かないことは分かる。
他にも様々な謎があるが、一番は春香の秘密を知っていることだ。
あれは一人しか知らない。その一人も去年この世から去った。
難しい顔をして考え込んでいると、いきなり女の子が声を掛けられ思考の世界から現実に引き戻された。
「なんでそんな顔してんの?」
「へっ?いや・・・。今からどこに行くんだろうな?って思って。」
女の子は春香の難なく隣に座る。
見た目は中学生。背も春香よりちょっと小さく155cmくらい。顔も小さく、化粧がいらない綺麗な肌と整った顔。肩に少し掛かった黒髪、身体から香水の匂いがする。
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