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『殺セ』
その言葉に意識がぶっ飛びそうだったが、何とか取り留めた。
まだ、殺しちゃいけない。
こいつが一人になったら、殺そう。
殺気を出さないように心を静め、息を吐く。
「そんなことないよ。」
こいつは僕と同じだ。
「まぁ、大学で運動しているからじゃないかな?」
殺しの天才とは言い切れないが、
「だから筋肉が付くんだよ。」
感が鋭い。
榊原に気付かれないよう細心の注意をしながら話す。
一言一句、丁寧に、少しでも殺気が交わらないよう。
クルーズ客船は十五分で街が見えなくなるぐらいの速さで運行している。
その間、春香と榊原の会話は途切れない。
一つの話が終わるとまた榊原が新しい話を持ち込んでくる。
春香は一言一言に意味が含まれていないか。疑心暗鬼にでもなりそうなくらい神経を使う。
会話をしないという選択もあるが、それでは相手に話したくない理由という情報を与えてしまう。
それは殺し屋にとっては命取り。
例えば、猛獣の王ライオン。獲物を捕りに行く時、いきなり出るという行動はとらない。確実に獲物を仕留めようと草陰に隠れ、ジリジリ獲物に迫っていき、油断した瞬間を狙う。
春香も会話で親近感を抱かせ、隙を狙い静かに殺す。
榊原は感が鋭いのか・・・、春香と同じなのかは分からない。
この会話で相手の情報を得ることも必要。
何気ない会話でヒントを得ようとするが、榊原はよく分からない。
いわゆる天然。
ならば、さっきの筋肉はただの偶然なのか。
分からなくなってきたきたが、警戒心は解かない。
「今、どの辺なんだろうね。」
確かに。結構クルーズ客船は日本海を進んでいる。
なのに一向に着く気配はない。
榊原の言葉を真に受けているその時、後ろから鈍い音が聞こえる。
「-ッ!!」
春香は瞬時に反応した。
この音は鈍器。
重いので空気を切る音が鈍い。しかし殺傷能力は低い。
狙っているのは頭。
鈍器が接触する瞬間、首を前に倒しダメージを軽減させ、気絶したふりをする。
床に倒れた瞬間榊原が悲鳴を挙げ、ドンッと鈍い音が聞こえた。
榊原も床に倒れ、吐息がかかる至近距離。
その後、目隠しをされ口や腕、手首、足首をロープで縛られる。
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