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時刻は18時、身支度を終えた僕はジャケットを羽織り、マフラーを巻き、外へ出た。
外はもうすっかり暗く息は白くなっている。外灯のわずかな灯りが僕を頼りなく照らしていた。
この分だともしかしたら雪が降るかもしれないな。
少しだけ早足で僕は学校へと足を進めた。
途中ジャケットのポケットが震える、着信だ。
ディスプレイにはやはり先輩と表示されていた、迷わず出る。
「はい」
「今日も寒いね、ちゃんとあったかい格好してる?」
「もちろん。家でいちばんモコモコのジャケット選んできましたから」
「Oh! そりゃふぁんしーだね」
「先輩は今どんなカッコしてるんですか?」
「セクハラはやめたまえ」
「違います!」
いつも通り。
いつも通りの会話でいつも通りの先輩だ。
だけどきっと僕の声は震えていた。
寒いからじゃない、怖いからだ。
先輩が何を言うかはもう知っているから、解ってしまうから怖いのだ。
それが聞きたくないから、聞いたらもう戻れないような気がしたから。
先輩はなおいつもの調子でしゃべり続ける。
僕も出来るだけいつもの調子で答える、壊れないように。壊さないように。
「そういえば、君のオススメのあの映画観たよ」
「あーゲボリアンですか?」
「うん、なんていうか結局ゲボリアンって誰だったわけ?」
「多分序盤で出てきたあのおっさんですよ、あのチンパンジーみたいな」
「おっさんってあの主人公のお隣さんの?」
「そうです、あいつしかいませんよ。まぁあくまで僕の予想ですけど」
「ふーん、なんでも来年の夏にはゲボリアン2上映するみたいだね」
「……」
そこで一旦会話が途切れた。
いつものように上手く切り返しが出来なかった僕が悪い。
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