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慌てて僕は話題を切り替える。
「それにしても天気予報見ました? 今日雪降るかもらしいですよ」
「みたいだねー。いっぱい降ったら雪だるまでも作ろうか」
「凝りすぎて彫刻の域にまでなってる先輩が容易に想像つきます」
「君だって、かじかんで絵が描けなくなるって言ってさっさと美術部戻ってるの想像つくよ」
「さすが先輩、だてに部長じゃないですね」
「ふふん、その後も分るよ。美術部で手持ち無沙汰になった君は校庭で巨大雪だるま制作中の私を描くんだよ」
「先輩せわしなく動くから描きづらそうですね」
「描けるでしょ? それでも、私なら」
「まぁ…何十枚も描いてますから」
「目指せ百枚!」
「先輩の絵ばっか延々百枚って僕すごい気持ち悪いですよ」
「いいの、描いてよ。思い出はいくらあったっていいでしょ?」
「……」
また上手く切り返せなかった。
否定でも肯定でも良い、とにかく繋げば続くはずなのに。
僕にはそれがたまらなくもどかしくて、痛くて、辛かった。
「そろそろ電車乗るんで一旦きります」
「うん、待ってるからね」
まるで逃げるかのように電話を切ってしまった。
電車に乗るのは嘘じゃない、そろそろ駅につくのも本当だ。
ただ、僕は確実に目を背けてしまった。
言い訳のように出てくる言葉は僕の心を真綿のように締め付け、やがて僕自身となって責め立てる。
改札を抜けた先、少し遅れているらしい電車を待ちながら鼻奥からつんと熱くなる衝動を必死に堪えた。
暗い、暗い夜空からやがて、ぽつりと何かが降ってくる。
雪だ。
× × ×
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