僕は先輩の隣へ行く

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「大事な話があります」  そうメールしてかれこれ数分、僕はこの数分間に何度メールの確認をしたか分らない。  ここ数日の鬱屈した日々から意を決し、ようやく送れたメール、先輩は返信してくれるだろうかなどと一人不安になる。  季節は冬、長いようで短いような思い返せば案外長かったようなそんな1年ももうすぐ終わりを迎えようとしているそんな時期。  学校はとっくに冬休みに入っていて、まだ昼だというのに何の予定もない僕は コタツの中で気持ちよさそうに寝息を立てている猫と一緒に暇をもてあましていた。  面白くもないTVを一日眺めながらどうにも晴れない憂鬱な気持ちが溜息として自然と吐き出てしまう。  ここ数日、冬休みに入ってからずっとこんな調子だ。  それもこれも原因はメールの送り先の人物にあるわけなのだが。    あぁ本当ならきっと今頃…    そんな心の叫びを敏感に感じ取ったのだろうか、さっきまですやすやと寝ていたはずの猫が唐突にコタツから顔を出し僕を鬱陶しそうに睨んだ。 「何だよその目は」  負けじとこちらもムッと睨み返すもすぐに我関せずといった具合で猫はいそいそとコタツの中に戻っていく。 ”貴様のような小物など相手にするのも馬鹿らしいニャ”  そう言われたような気がした。  確かに僕は小物だ、多分今の僕はミジンコよりも小物で中二男子よりヘタレだと思う。  何せあれほど毎日欠かさず行っていた部活も冬休みに入ってから一度も行けずじまい。  ようやく送った、たった1通のメールにですら戦々恐々としているのだから  と、その時  ピロリン♪と間抜けなメロディが鳴った、テーブル上の携帯をとると一通のメールが受信されていた。  差出人は「先輩」と表示されている。  僕が知っている唯一の上級生で、僕の所属している美術部の部長で、僕の憂鬱の原因。  慌ててメールの中身を確認する。  あまりに慌てたせいでコタツに足をぶつけて、中の猫が「ふぎゃっ」と悲鳴をあげたが、なに気にすることはない。  文面はこうだった。 「今日の19時、いつもの場所で待ってる」  様々な思いや考えが脳内をグルグル駆け巡るもそれらをひとまず置いて「わかりました」とだけ返信した。
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