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一方向へと風が吹く。その風が自分の肌を切り抜けて行くのが分かった。周りの木がその風でゆらゆら揺れた。
「夢叶!?どうしたんだよ。」
「気安く名前呼ぶなっ!」
顔面に蹴りが飛んできた。
昨日会ってまた会える様な気がするとは思ったが昨日の今日で会うなんて思いも夢にも思わなかった。
やっぱり夢叶は何かを持っている。ただ、そんな気がしてならない。
「別にあんたと一緒に食べたいとかラブコメみたいな展開にはならないから安心して。私はあんたみたいなサボり魔には興味ないから。」
表情一つ変える事なく冷静に俺を見下す。それが怖くて堪らないんだが。
「誰もそんな展開、期待してねーよ!ってか食べてるだけでなぜ貶されなきゃいけないんですかね!?」
彼女は俺の座っているベンチの空いてるところに「隣、いいかしら?」と座る。
本来ならここのベンチは俺の特等席であり、全然人気のない場所なのだ。見つける前は座っている人も人影さえも見た事がない。
中庭の噴水の周りにはベンチが沢山あるからそこにいろんな生徒が集まるのだが、一つ外れてここにポツンとあるベンチは近寄りがたいのだろう。
そのため、不人気で人が全然通らない。だが、逆に言えば人混みの少ない環境の良い場所でもある。だから俺はここの場所が好きなのだ。
「ここ、私も気に入ったわ。こんなに空気がおいしいところ他にはそうそうないわよ。」
彼女は大きく深呼吸をする。
そんな彼女を見てると自然に覚悟と勇気が出た。今なら聞ける。俺も大きく深呼吸をした。
「お前、この学校好きか?」
「なにそれ。」
馬鹿にしたみたいに返答してきた。
「普通よ。ってか考えた事もないわ。」
「考えた事もか…。じゃあ何でここに来たんだ?」
不意に思いついた。みんなは何でこの学校を選んだのだろう。
「複雑って言えばいいかしら。…言ってもあんたには分からないわよ。」
完璧に冷たくあしらわれた。やはり聞いてはまずい事に触れてしまったのだろうか。
彼女には心に壁がある。
たとえ、親友だとしても入られたくない心の奥の真実だ。ただそんな気がする。
そのくせ、昨日会ったばかりの俺に心を許すなんてあるわけもない。
何故だろうか。何故か悔しいと思ってしまうんだ。この壁のせいでこいつに近づけなくなってしまっている事に。
でも、それの反対には嬉しさもあった。青春を知らないのは自分だけじゃない。ここにだっていたのだから。こんな未来が見えない高校生活は不安で仕方ない。
どこかで道を踏み間違えてしまいそうで怖いのだ。だからこそ何かが欲しい。毎日が楽しくなるそんな事が欲しい。そう思ってしまうんだ。
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