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序章 プロローグ
「卒業証書」
体育館の隅や後席にスーツを着ている大勢の大人が顔を引き締めて姿勢良く座っている。もう何時間座ってるだろうか。
壇上には黒の髪の中に白髪が混じって皺(しわ)が目立ってきている老人が机上に何枚も重ねて置いてあるA3用紙を一枚手に持って壇上の一人の学生服を着た少年へ渡していく。
鏡越しから外を観ると桜の花びらがゆっくりと散っていた。
新しい環境へ旅立つ自分達を後押しされてる様な新鮮な感覚を実感させられる。
春は春夏秋冬の中で最も素敵な季節ではないのだろうか。
門から校舎まで桜で覆われているこの一本道はなんて綺麗な事だろう。
頭の中では早送りで3年間の思い出がフラッシュバックした気がした。
学生服を着た大勢の少年達が散る桜と共に大きな校舎から背を向けて門を潜りぬけていく。この校門を括り抜ければ新たな世界へ踏み出す事になる。
泣いていたり、記念写真を撮っていたり大勢でワイワイしていたり。
今日だけはいつもとは違う景色だ。
きっと誰もがこれから未知の世界へ行く事への不安を抱えている事だろう。
終われば義務教育と呼ばれる縛りは無くなり、自分の進む方向へ一直線に歩くだけ。
中には進学なんかせずとも働く人だって少なからずは居る。しかし、自分は違う。
単刀直入にはっきり言うなら高校そのものに興味はない。
ただ何かが変わる。
そうやって根拠のない何かを期待して、根拠の無い変化を求めている。
先に何が見えるわけでもないのに何でこんなに不安になるんだろう。
答えを探す為の旅へと今、足を一歩前に出した。
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