青写真

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ジューンブライドなんて海外の文化を輸入した奴は阿呆だと心底思う。 梅雨という奇っ怪なものが我が物顔で国土を覆い尽くすこの日本において、六月なんて憂鬱の象徴でしかないのに。 「いい加減機嫌なおせって」 顔と顔が触れ合いそうな至近距離から、彼がわたしの額を小突いた。 暴力反対をとなえるかわりに、むすっと唇をとがらせる。 軽いスキンシップ程度でなおるほど、わたしの機嫌は安くない。 もうほとんど止みかけている雨の中、傘をさしたいというわたしのわがままに察して、相合い傘で道中を歩いていたとしても。 本当なら今日は、朝から彼と遠出の予定だったのだ。 生憎の雨天に予定を変更せざるをえず、さした目的地もなく、とりあえず暇を潰せるだろうと駅前に向かっている現状になんの不満も抱かないのなら、そろそろ釈迦の地位を脅かせる。 傘で多少は隠れているはずなのに、時折すれ違う人の大多数がわたしの顔を凝視する。 時にはUターンしてまで覗き込もう不躾な奴もいて、そんな時はさりげなく彼が傘を傾けて覆い隠す。 嫌味なようだが、自覚はある。整いすぎているのだ、わたしの顔は。 彼がふと足を止めたのは、さして特徴もない駅前の広た。 いつもなら人ごみで空気すらも灰色に感じてしまうそこは、ちょうどダイヤの間隙をぬったのか、人々は老人の毛髪のように点在する程度。 傘がたたまれる。 いつの間にか、雨は止んでいた。
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