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(…やめよう。今の状態を再認識しても意味がない)
長時間寝ていたことですっかり固まってしまった体をよろよろと動かしながら様子を伺うが、下階からいつも聞こえてくるはずの美しいソプラノも、何かを調理するような音も、軽やかなステップを踏んでいるような足音も、何も聞こえてこない。
そろそろと1階へつながる階段を下りていくが、途中の廊下にも明かりはついていない。どういうこと?
主を失ったリビングは朝より一層静まり返っており、時計の音すらない空間はひどく広く、心細く感じる。
街灯の明かりを頼りにリビングの電気をつけると、やっぱりそこには人の気配も姿もなかった。
「か…かあさん…?」
頼りなく放った自分の声はリビングに溶けて消えていく。
「母さん…?母さん?」
何度呼びかけても返事をしてくれる人はやはり、いない。
「かあ…ママ…?」
そう呼んだら怒られるのはわかっている。けれど何度も呼んでも、そう呼んでも返事はない。
(仕事…まさか…)
少しでも今の状況を把握したくて、あたりを見回すが、買い物にいったような痕跡も、クローゼットを開けて仕事にいった痕跡もない。玄関を見るが、減った靴も見当たらない。
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