8104人が本棚に入れています
本棚に追加
「ユズル。パパはこれから警察にいってくるからお前はここにいなさい」
「私も行く!」
「だめだ。もしママが帰ってきた時にお前がいないんじゃ余計にこじれる。わかるね」
「でも…」
不安な気持ちが伝わったのだろうか、父親は同じように不安に瞳を揺らしたが、そろそろとのばされた手が私に触れることはなかった。
「…いいね。家にあるものを適当に食べて今日は寝なさい。パパは警察に行ってから一度仕事場に戻るから。鍵をかけておくんだよ」
「パ…うん…」
うつむいてそう返事をすると、父親はちらりと私を見ると、慌ただしく玄関から飛び出していった。
遠くで車が走り去っていく音が聞こえ終わると、また静寂が家全体を包む。
それを玄関先でじっと聞いていたが、完全に音が聞こえなくなると、ゆっくりと鍵を閉めた。
(誰も閉じ込める人はいなくなったのに、自分で鍵をしめるなんて)
なんて滑稽なんだろう。そう考えると溜息にも似た苦笑がこぼれる。
「もう…寝よう…」
あれほど感じていた空腹感はいつの間にか感じなくなり、代わりにやってきたのはぽっかりと空いた穴から感じる虚無感。
(もう寝てしまおう)
きっと目が覚めればいつの通りの進まない時間がやってくるだけだ。
キッチンからは楽しそうな歌声が聞こえてきて、私を通した先の人を見つめる優しい母親の顔が見られる。
もう学校に行きたいなんて言わなければ怒られない。
勉強なんてしたい時にいつでも出来る。ネットにあがれば知りたいことは大抵調べられる。話し相手が欲しかったらチャットでもすればすぐに誰かが声をかけてくれる。
(ここから出なくても、私は大丈夫だから)
鈍く感じる胸の痛みは多分気のせいだ。
最初のコメントを投稿しよう!