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飲むことで胃にたどり着き、それからアルコールは分解される。
それが例えば直接目や鼻、敏感に感じる粘膜に辿り着いたら?
斗真くんならそんな理科学的な根拠や考えをもってもっとスマートにやったかもしれないけど、そんなかっこいい考えがあったわけじゃない。
ただ目の前でお酒に酔い始めている姿を見てもう少し飲ませることが出来ればと思った。
ただ目の前に酒を差し出しても、交戦状態となった今ではそれを素直に飲んでくれることはないと思った。
あの徳利の重さは持ってわかっていた。だから自分の力じゃない“何かが”運んでくれればどうにかなるかもしれない。
それしか考えていなかった。
(だったら…っ)
毒の風は今の鬼にとっては動けなくさせる猛毒の霧を乗せて拡散していく。
ある鬼はその毒で、ある鬼は相乗された毒によって、カエルがつぶれたような悲鳴を上げ始める。
大した考えもなく起こした行動は、結果的に功を奏してくれたけど、もともとうまくいくなんて考えがなかった私は、それを見ていても機敏に動くことは出来なかった。
「皆守さん…君は…」
周さんに声をかけられて、そこでやっとはっとする。
「は…早く、スキルを…解除して…ください」
目の前に飛び込んできた顔はその毒にあてられたかのような真っ青な顔をしている。
その顔が小さくうなずくと、向けられていた数本の刃と、外側に向かって展開していた無数の刃がその風にさらわれるかのようにして消えていく。
「お…のれ…」
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