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体が光に包まれている瞬間、ふと“日常”が走馬灯のように頭の中を通り過ぎる。
ずっと聞こえていたのは、母親の声。
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「タスク、あのね。母さんしばらくお仕事休むことにしたのよ」
「これからはずっとタスクのそばにいるわ。今まで寂しい思いをさせてごめんね」
「今日はタスクの大好きなチーズオムレツを作ったのよ」
何が楽しいのか目の前の美しい女性は歌を口ずさむかのようにセリフを重ねる。
それを私は「そうだね」「うん」と繰り返しながら味気のしない朝食を口に運んでいくのだ。それが私の日常。
この家に時計はない。無駄に大きい60インチを超えるテレビもただの置物と化して久しいものになっている。
最初は不便で母親の目を盗んでつけようとしたが、そのたび狂ったように怒り、時に泣きわめく姿を何度も見るたびにその気持ちもいつしか失せてしまった。
しんと静まり返った家に外の鳥の鳴き声と母親の声だけがやたらと響く。
いつもなら朝食を食べ終わったら昼食の準備が終わるまで自分の部屋でネットをして時間をつぶすなりするのだが、今日はいつもと違っていた。
「あの、かあ…さん」
自分から話しかけるなんていつぶりだろう。実の母親にそこまで緊張している自分の姿ははたから見たらさぞかし不自然に映るだろう。
「なぁに?」
そういってほほ笑む姿は幼い頃からブラウン管越しにみていた姿からなんら衰えは見られない。
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