8104人が本棚に入れています
本棚に追加
あの頃はまさか母親がこうやって自分のそばにこうやっていてくれる存在になるとは思ってもみなかった。
まるで他人のようにテレビ1枚隔てた先に住む別世界の人。それが今は自分の瞳にしか映らない存在になっている。
「あの…わ…僕…学校に…」
全てを言い終わるより前に目の前の美しい女性の顔はみるみる醜く歪み、弧を描いて笑みを浮かべていた口元は怒りに震えだした。
「だめよ!!学校なんてだめよ!タスクまで『ユズル』ちゃんのようになったら…私私…っ」
そういうと泣きだし、何かに憑りつかれたかのように目の前の皿を投げつける。
1つはあらぬ方向に、1つは壁にぶつかり、1つは私の腕に当たって砕けた。
「母さんがずっと守ってあげるから!タスクは何も心配しなくていいの!あなたはここから出ちゃダメなの!!」
目の前にはぶちまけられた色とりどりの野菜とオムレツの黄色が目に入るが、それが全部灰色の色彩で埋め尽くされていく。
「いいわね!タスク!!」
目の焦点があっていない女性はそう言い、私の髪を優しく撫でつけた。
私の名前を呼んでくれずに、いなくなった人の名前を繰り返しながら・・・。
「わかったよ…母さん」
-----------
--------
それが私の日常だった。
通り過ぎる光の一部にその走馬灯が浮かんでは消えて行ったのに、無意識に腕をかばうように抱きしめる。
最初のコメントを投稿しよう!