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東京都――池袋。
山手線をはじめとする都市交通網の動脈をになう大区画だ。
オフィス街、歓楽街、住宅街が多様に入り乱れ、通行人が《所狭し》と闊歩する。
「まるで《パレット》だな。この街は」
緋縞奏(ひじま かなで)は廃ビル屋上の鉄網にもたれ掛かり、赤く澄んだ瞳をこすりつけた。女子高生の夜ふかしを理由に、無駄な充血をまとっているわけではない。黒い瞳が徐々に紅みを帯び、一年経った今では《ルビー》のように染まっていた。原因は不明、しかし彼女はそんな異常事態を一縷も気に病んでいなかった。
むしろ大手をひろげて歓迎した。
「だが、すぐに塗りかえてやる」
緋縞は短く折ったスカートから《スマートフォン》を取りだし、食い入るように見つめ始めた。画面にはニ四色で鮮やかに彩られた《色相環》が表示されている。
緋縞は愉悦の笑みを隠さず、自身の感情を素直に吐きだす。
これが自由だ。
これが快楽だ。
嬉しい、楽しい、喜ばしい。
心がスカっとする。
この力があれば、誰だって、何人だって。
殺し尽くせるのだから。
嬉しいよ、カラーズ。
もうお前無しでは生きていけない。
歪な口元は開かれ、笑い声は空虚にこだまする。
「受け取れ、私からの戦線布告を――ッ!」
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