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とある森の奥に薄暗く、じめじめとした研究所がある。
その内部を一人の女が走っていた。その女の腕には赤子が気持ちよさそうに眠っている。
「はっ……早く逃げないと。この子を守れるのは私だけなんだから……」
女がさらに強く赤子を抱きしめながら走っていると、何処からか感じる違和感。
どうやらその違和感は的中したようで、後ろから何発もの銃声が聞こえてくる。
「くっ、」
女が後ろを振り返れば自分の直接ではないが上司が汚らわしいものを見るような目で見下し、言葉を紡ぐ。
「さあ、くだらない鬼ごっこはおしまいだ。さっさとその赤子を渡せ」
「だが断る。って言ったらどうするつもりなのかしら?」
「力ずくで奪う。ま、君は科学班所属で攻撃に向いてないから奪うのは赤子の手をひねるように簡単だろう……」
「…………」
「赤子だけにね」
「言うと思った!」
というくだらないやり取りを続けている間も上司は銃をおろす事はなく女を見つめ続ける。
そして女もまた、後ろに隠していた銃のトリガーを外した。
「少しおしゃべりがすぎたようだね……だが、残念ながら私たちには時間が無い」
「例のコッド・チルドレン計画ってやつですか? 名前から中二感あふれるあれ……」
「そうだ。名前は考えないものとするが……計画自体は素晴らしい、きっとこの価値のなく、くだらなくて、残酷な世界を変えるものとなる」
「…………」
「そして、その赤子が計画に必要なのだ。この世界を我々の色に染めるためにもな」
ふははははははは、と特撮の悪役のような笑い方をする上司を女は呆れた目で見つめながら距離をとる。少し離れて良い距離になったとき、女は天井に銃口を向けてそのまま何発も発砲した。
「何? ゲホッゴホッ……」
上司がせき込んでいる間に女は赤子を抱えて逃げ出した。
遠く、なるべく遠くに。
計画に巻き込まれない場所まで……
「に、逃げたぞ! 追え、追えー!」
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