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しばらく走れば研究所は見えなくなり、いつの間にか森も抜けていた。
「ここまで走れば、何とか、はあっ……」
女が呼吸を整えながら腕の中の赤子を見れば、すやすやと穏やかな寝息をたてて眠っていた。
「この寝顔は、私が守らないと……この子だけじゃない、みんなも……」
そして女は一つ息を吐いて空を見上げた。
雲ひとつない晴天が目の前に広がり、太陽の光が女と赤子を優しく包む。包まれながら女はポツリポツリと言葉を紡いだ。
「何も求めないし、私はどうなってもいい。だけど、この子やみんなに何も起こってほしくない。だから………………」
―――――☆
「っはあ……はあ、はあ、」
「だ、大丈夫?」
「あ、ああ。あれ、俺……」
俺は毎夜、こんな感じの同じ夢を見る……今回は長く、鮮明に。
加えて、よほど酷くうなされていたのか、隣に座っている長い亜麻色の髪をツインテールにした幼馴染は焦ったような顔をしていた。
「大丈夫、何かあった?」
「ああ、気にしなくていい。いつものことだから」
「いつもの事って……余計心配だよ……」
シュンとした表情をする幼馴染をとりあえずなだめようと少女漫画のように頭をポンポンしてやる。するとアホ面全開で笑う。
ホント……単純なやつ……
「えへへ、ありがとー」
「別に」
そう、ぶっきらぼうに言って俺は幼馴染から視線をずらし、バスの外を見る。隣で「また外見てる……」と呆れたような声が聞こえたが、あえての聞こえないフリをした。理由は」単純にめんどくさいから。
「もしもーし、聞いてます? カイくーん」
どうやら幼馴染は俺に構ってほしいようだ、構う気はないが。
ちなみに、カイくんとは俺のあだ名であり、本名は森下海斗(もりしたカイト)。幼馴染は桐生仁美(きりゅうひとみ)、自他共に認める美少女だ。
スレンダーだが付くところは付いたしなやかな肢体を持ち、声も透き通っている……とか何とか言ってたヤツがいるぐらいだし当然モテる、らしい。
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