プロローグ

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「行ってきまーす!」  東から昇った太陽が朝露に濡れた草花を照らす朝。その小さな村に、少女の元気な声が響く。  クリーム色をした木造の家から飛び出し、家の横にひっそりと佇む2つの墓標を横目に見やり、少女は小走りで目的地へ向かって行った。  人口が少ない村とだけあって、少女の行く道に人影は見られない。見えるのは家畜のウシや豚、聞こえるのはニワトリやスズメ達の合唱だけだ。  少女がしばらく、といっても2~3分走ると、目的地の白い家が見えた。2階建てで汚れのない純白の外装。そこに住まう人の気質は、家にも現れるのだろうか。  そしてその家の前では、1人の女性が庭先の花に水やりをしていた。腰まで届きそうな金色の髪に整った顔立ち。大人の美しさというよりは、少女のような愛らしさが滲み出ている女性だった。 「おはよマキ姉! 今日もカワイイね!」 「あら、おはようございます」  じょうろの水を花達に与えながら、笑顔で挨拶を返す女性。少女はスピードを緩める事なく、白い壁の家のドアを勢いよく開けた。  家の中には、服の上からでもガッシリとした体格が分かる、屈強そうな男性が新聞を読みながらコーヒーを飲んでいた。 朝、少女がいきなり侵入してきたというのに、男性は動じるどころか見向きもしない。いつもの事なのだろうか。 「おはよテッちゃん! 今日も汗臭いわね!」 「お前の親父に『黙れ』と伝えといてくれ」  テッちゃんと呼ばれ男性は少女にかなりの暴言を浴びせられたのに、やはり優雅にコーヒーを啜っている。これも普段の日常なのだろうか。 「アイツなら部屋にいるぞ。まだ寝てるんじゃないか?」 「知ってる! だから起こしに来たの!!」  そう会話しながら少女は部屋を突っ切り、2階へ続く階段を上がっていく。1人残された男性は、とりあえず後で少女の父親を殴ろうと心に決めた。新聞をめくりながら。
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