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頭の中で流れ出すメロディと、そこにぴったりハモる音たちを考えて。
大和の綺麗に響くサックスではこんな表現をしてもらいたいな、玲央にはきっとこんな弾き方が合うだろう。
一度溢れ出した音たちのパレードは、止まらない。
一応授業中だということも忘れて、私はひたすらに音を記していく。
無意識にメロディを微かに鼻歌で歌っていることに、気付きもせずに。
「………神崎悠」
「あっ…」
気付いた時には、目の前に人の気配。
上から降ってきた、まだ聞きなれない声に恐る恐る顔を上げると。
顎鬚を撫でながらニヤニヤとしている担任が私を見下ろしていた。
「あ、ははー……」
「集会で立派なスピーチをしていた生徒会長が一体、何をやっているんだ?」
「……作曲、ですね」
「作曲?」
私の返答に驚いたのか、新担任は怪訝そうな表情を見せた。
「先生!悠は音楽の天才なんだぜ。マジですげーんだから!」
そう、フォローなのかよく分からないセリフを言った空雅。
「そうそう!音楽祭の時、すごかったよねー!」
「月次くんだってあの中にいたんでしょ!?」
「フランスにまで行っちまうんだからマジでヤバいよなー」
「動画、いつも楽しみにしているんだ!」
と、次々に上がるクラスメイトたちの声に新担任は教壇に戻った。
「よしお前ら、なんだかすごいみたいだから音楽祭の時の話、聞かせてくれよ」
興味深げな新担任に、あちらこちらからクラスメイトは話していく。
いつの間にか、委員会と学級委員は決まっていたみたいで、残りの時間はこの話で持ちきり。
……なんだか、嬉しいような恥ずかしいような、でもやっぱり嬉しい気分。
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