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「……何、どうしたの」
と。
断崖絶壁に立たされていた私を、仕事から帰って来た柚夢が現れたことが唯一の救い。
「救世主!」
「え?僕が救世主?3人とも怖い顔して、どうしたの……って、悠!?お前が一番どうしたの!?」
「あぁ、ちょっと火傷しただけだから大丈夫」
「大丈夫じゃないでしょ!ちょっと見せて!?……誰、悠をこんな目にあわせたのは?」
「柚夢、違うよ。私の不注意でやっただけだから、誰も悪くないってば」
「本当に……?痛くない?」
「もう全然大丈夫!あぁ、帰ってきてくれてよかったぁ」
縋るように柚夢に手を伸ばせば、すぐに手を取って私の身体を引き寄せてくれる。
「で、煌たちはどうしてそんなに怖い顔してるわけ?僕がいない間に何があったの?」
柚夢は、私を抱きしめながら3人を見上げて冷たく言い放つ。
今の3人の顔を見たら、それだけで寿命が縮まりそうだから柚夢の胸元に顔を埋めた。
「……ムウ、悠から離れろ」
「僕じゃなくて、悠からくっついてくるんだけど?悠をこんなふうにしたのは、君たちじゃないの?一体、悠に何を言ったの?」
大和の低く押しけられたような声に、ゆっくりと柚夢から身体を離した。
「煌、状況を説明して」
「……悠がぼーっとしていて茹でていた麺を零した。火傷したから築茂がここまで運んできたんだけど、その後……築茂が悠を抱きしめていたんだよ。それで大和が逆上して、ちょっと言い合いになっただけ」
さすが煌、話をまとめるのがお上手ですこと。
とりあえず私は、さっきまでのことと今の状況を無かったことにしたくて堪らない。
「いい加減、悠の身体に教え込まなければ俺たちが爆発する。それはお前たちも分かっているだろ?」
「………」
軽くため息を吐きながら眼鏡を取って、レンズを服で拭きながら言う築茂。
爆発するって……嘘でしょ、みんなはそこら辺の男みたいに理性が薄いわけじゃないよね?
「今の関係を壊したくないと、お前は思わないのか?」
「ならば、煌は一生このままでいいと思うのか?」
「っそれは……!」
「ぐずぐずしていたら、お前の兄だって厄介なことをしかねない。俺はこれ以上、悠が他の男に触れられるのはごめんだな」
ま、まずい……。
私は今のままでいたいし、誰かを恋愛対象で好きになることはもうしないって決めた。
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