第3恋

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だけど、そのことをみんなに言う勇気はなくて、私の立場は変わっていない。 いつかは、誰か1人を選ばなければいけないってこと。 「じゃぁ悠にはもう、決まった人がいたら……どうする?」 はい? それまでキッチンにいたはずの日向が、突然意味の分からないことを言いながらリビングに入ってきた。 日向の言葉に大和と築茂は眉根を寄せて、煌と柚夢は怪訝そうに日向を見つめる。 「おい日向……悠に決まった人がいるってどういうことだよ……?」 「それは本人に聞いてみたら?」 営業用の笑顔で私ににこりと微笑んだ日向。 ……やっぱり、私は日向を物凄く怒らしてしまっているらしい。 日向の笑顔が黒く、感情のないような瞳が何よりもの証拠だ。 やっぱり、大和みたいに声を荒げて怒るよりも、築茂みたいに鋭い声で咎めるよりも。 日向のこの笑顔が、一番怖い。 「ねぇ、悠?誰を……愛しているの?」 「ん?」 「恍けなくていいよ。愛してる、って幸せそうな顔をしながら寝言で言っていたよね?」 「寝、言……?」 もしかして私は……寝言で『愛してる』なんて普段、使ったこともない言葉を吐いていたのか!! まさか、日向の様子が帰ってきてからおかしかったのはこれが原因だったの? この場にいる全員から、どうなんだよ、と目で語られる中。 「あの、日向さん」 「なに?」 「もしかしてそんなことで……ずっと、怒ってたの?」 「そんなこと?へぇ……ま、悠からしたらそんなことかもしれないね。でも怒ってたんじゃないよ」 「え?」 くすくす、と小さく笑った日向は。 「どうやって悠を縛り付けようか、って考えてた」 氷のような嘲笑を、口元に浮かべていた。 ……え、めちゃくちゃ怖いってどころじゃなくて、こんな日向知らないんですけど。 別人のように笑顔が真っ黒なんですけど。 いや、大和から日向の腹黒伝説は聞いていたけど、最終的には全部笑えるようなものばかりで。 こんな冗談でも笑えない日向は、本当に怖い。 .
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