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あぁ、そうだよ……日向はいつも人一倍優しいからこそ、人一倍心が繊細だ。
こんな関係になるまでは優しすぎて大丈夫かなって心配すらしていたのに。
何でも言い合える関係になったからこそ、日向の心の繊細さをいつの間にか考えなくなっていた。
どんな関係だとしても、傷つけるようなことはしたくないと思っていたはずなのに、私は結局、何も変われていない。
「日向……ごめん。近付かないでって言ったのは、半分冗談だった」
「冗、談……?」
「うん。いつもふざけて何でも言い合っていたから、こんな時にでも私は言っちゃうみたい。ふざける場面じゃなかったのにね」
私は自分の過去が重いものが多いから、これ以上重い過去を増やしたくなくて。
必死にすべての出来事を明るく、楽しく、軽く捉えるようにしていた。
「本当にごめんなさい。私、日向の優しいところも繊細なところも黒いところも、全部全部、大好きだよ」
こんな言葉で一度つけてしまった心の傷を癒せるとは思えないけど、これが今の私の本心だから。
「それと……私が愛しているのは、みんなのことだよ」
「みんな?」
「日向の隣で寝ていた時、すごく愛されてるなって思ってさ。私はたくさんの愛をもらってるけど、私からは返せているのかなって。だから、みんなを愛してるよって思ってたの」
「……」
「まさか、声に出してたとは思わなかったけど」
我ながら呆れと羞恥から、小さな笑いが零れた。
「私の心はきちんとここにあるよ。それは一生、変わらない」
誰にも、私の心は持っていけないと思うから。
「たくさん私を愛してくれて、ありがとう。だから私の愛も伝わるといいな」
うまく伝わったかは、分からない。
愛だとか恋だとか、形に見えないものを語るなんて今の私にはまだ無理だけど。
それを知っている人から与えられた愛には、心からありがとうを伝えておきたい。
すべてを返せるかどうかは分からないけど、今はまだ見返りを求めていないと、信じているから。
私は、やっといつもの日向らしい表情が戻って来てくれたことが嬉しくて、反射的に微笑んだ。
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