第4恋

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さすがにこの人だかりだと私の声はすぐにかき消されてしまい、気付いてもらえない。 私はもう一度櫂さんの名前を呼んで、櫂さんの服の袖を引っ張った。 「……神崎悠さん!?」 「はい!覚えていてくれたんですね」 「もちろんです。今日はお1人で買い物ですか?」 「あ、いえ……煌と日向と」 後ろから慌てて追ってきた2人を振り返って、苦笑した。 「春日井先輩に、荻原さん……と、一緒なんですか」 「はい。ちょっと買い物に付き合わせちゃってて」 「悠!突然走り出すなよ。見失ったらこんなに人がいるんだし大変だろ。あー焦ったぁ」 「ごめんごめん。こんなところで櫂さんにもう一度会えるとは思っていなかったから」 顔をしかめた煌に、素直に謝りながら櫂さんを見るとちょっと驚いた表情をしていた。 「櫂さんは本を買いに来たんですか?」 「あ……はい。好きな音楽家の新しいエッセイが今日発売なんです。どうしても早く欲しくて」 「そうだったんですか!それにしてもすごい人ですね。櫂さんは人混みとか大丈夫なんですか?」 「確かに少し苦手です。この容姿ですし、変な目で見られることが多いので」 「えぇ?それは違うと思いますよ。すごくキレイな髪をしているから、みんな見とれているんだと思います!とても目立ちますもん」 「そ、そうですか?ありがとう…ございます」 頬をかきながら、ぎこちなく微笑んだ櫂さん。 白のカットソーにグレーのカーディガン、デニムパンツのシンプルな私服を。 すらっと着こなしている櫂さんは、雰囲気も落ち着いているせいか、とても大学生には見えない。 「……伊波くん、悠が邪魔して悪かったね」 「とんでもないです!むしろ、またお会いできて嬉しかったですよ」 「煌!別に私は邪魔してないもん」 「思いっきりしてるだろ。伊波くんは優しいんだよ」 「そんなことないですよねっ?櫂さん!」 「はい。春日井先輩、悠さんを責めないであげて下さい」 「ほーら見ろ!」 へへん、と得意気に鼻を伸ばせば煌と日向は顔を見合わせて肩を落とした。 「櫂さん!私、もう一度会えたら連絡先、聞こうと思ってたんです。櫂さんの歌声、一度でいいから聞いてみたいなって思ってて」 「本当ですか?それは嬉しいです」 快く携帯を取り出してくれた櫂さんに、私もすぐに赤外線の準備。 .
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