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げんなりとしそうになる表情を意地で殺して、満面の笑顔を張り付ける。
「本当のことを言うと、人を待たせてるんです」
「……あぁ、すまん。それは男、か?」
「はい。付き合って3年目になる彼氏です」
ここまで言えば空気を呼んでくれるだろう。
ま、もちろんまっぴらな嘘だけど女の子のデートを壊すような人ではないと思うから。
「そ、っか。悪かったな、ひきとめて」
「いえ、大丈夫です。それではまた」
「あぁ、彼氏とうまくやれよ」
「ありがとうございます」
軽く手を振って、足早に先生から見えない場所まで逃げた。
「悠っ!!」
「煌、日向!」
もう大丈夫だろう、と後ろを確認してすぐに煌と日向が焦った表情で駆け寄ってきた。
「あぁ……よかった。突然いなくなったからビックリしたよ……」
「ごめんね。花火選び終わったから2人のところに行ったんだけど見つからなくて」
「ごめんな。カッチャマンとか木炭とかも必要だと思ったから、そっちを見てたんだ。花火売り場に悠を迎えに来たんだけどいなくて、マジ焦った」
スーパーの中ですれ違ってこんなに焦るなんて、どこまで過保護なお父さんとお母さんだろう。
「ふふっ、本当にお母さんとお父さんみたい」
「……お前がそう思いたいなら、そう思えばいい。俺たちは家族みたいなものだろ?」
「うん!世界でたった1つの大切な家族の一員だよ」
私たちはそれぞれ、家族というものにいろんな想いを抱えているから分かち合える。
悲しい想いも苦しい想いもたくさんしてきたから、こうやって傷を見せ合えるんだ。
「じゃ、こっちも花火も決まったことだし会計してこよう」
スッと私が持っていた花火を持ちながらお会計へと向かった煌の背中を。
いつもありがとう、と心の中で思いながら追った。
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