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夜ごはんも食べ終わり、順番にお風呂に入ってもらっている間。
私はイヤホンを耳にお気に入りの音楽を聞きながら、洗濯物を畳んでいた。
自分で作詞作曲をして歌うシンガーソングライターがすごく好きな私は、自分の曲を作るときにもいろいろ参考にしている。
やっぱり、シンガーソングライターはみんな自分の意思やポリシーをしっかり持っていて。
音楽で聞いている人に何を伝えたいのか、何を感じてほしいのか、すごく明確に分かる。
私は音楽を仕事にする気はないけれど、こうして自分の得意なものを仕事に出来る人ってすごいなと思う。
「何、聞いてんだよ?」
左耳のイヤホンを取って、そのまま自分の左耳に差し込んだ大和。
「誰の曲だ?初めて聞いた」
「あまり知られていない歌だからね。こういう曲、すごく好きなんだ。間奏の煌びやかなピアノの音が特に好き」
「……へぇ。やっぱりお前には、音楽が恋人って感じなんだな」
「ははっ!言われてみればそうかも」
至近距離で私の顔を覗き込む大和の顔には、もうペンで落書きされた跡はない。
ただ少し、落とすときにこすりすぎたのか、目の下が赤くなっていた。
「……ここ、赤い。こすりすぎたでしょ」
大和の目元に指を添えて、触れているのかいないのか怪しい距離で、指を動かす。
目力の強い大和の瞳が、私の口元を見ていた。
「なぁ、悠」
「なーに?」
「こんなに顔が近くにあるのにさ、お前はドキドキしたりしねぇの?」
「ドキドキ?心臓がってこと?」
「それ以外何があるんだよ」
笑って誤魔化そうとしたけれど、やけに真剣な表情の大和は、そのまま私の手を強く握りしめた。
「……俺は今、めっちゃドキドキしてんのに」
そう言って、握っていた手を大和の左胸に押し付けられる。
うわぁ……マジで物凄く早く動いてる。
「私さ、緊張とかドキドキとかあまりしないみたい。唯一したのは、あのコンサートの時だもん」
「だろうな。お前はいつも余裕そうで、照れたり乱したりしない。だからこそ、俺がお前をそうさせたくなるんだよ。意地でもな」
ふっと口角を上げて笑う大和に、私は何も言い返せない。
まだ、誰にも言えていないから。
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