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私は二度と、恋愛はしないってこと。
「私のこと……好き?」
「お前、なんてこと聞いてんの?バカ?」
「いやぁー、本当に好きなのかなぁって」
「はぁ?何、俺の気持ちは全然伝わってないわけ?」
「いや、そういうことじゃなくて。もし本気なら、辛いだけじゃないのかな、って……」
「……」
あれ、また私は何か間違えたのかもしれない。
頭を抱えて盛大なため息を吐いた大和の様子を、黙って見ていると。
ぐらり。
背中には冷たくて堅い床、両手首は大和の手の下に敷かれていて。
身体は、大和に押し倒されていた。
「……あぁ、辛いよ」
やっと聞こえるか聞こえないほどの声に、ドクン、と嫌な脈が打つ。
緊張とか恥ずかしいとかはあまり感じない私だけど、心臓が痛くなるのはよくあることだ。
特に、大切な人の歪んだ表情を見たとき。
「悠の笑顔が俺だけのものにならないことが。悠を笑わせられるのが俺だけじゃないことが。悠の心が俺のものだけにならないことが」
……やっぱり、人は恋愛をしてしまうと傲慢で独占欲が強くて嫉妬という、恋愛をしなければ絶対に生まれることのない。
私の大嫌いな感情を、持ってしまうんだ。
「だけど…っ…」
歪んでいた表情が一転、それすら愛しているかのような優しい表情になって。
「それ以上に……お前を好きでいると、幸せだと思うことがたくさんあんだよ」
幸せ……?
「お前の笑顔を見ると、すごく幸せな気持ちになる。ずっとずっと、この笑顔を守りたいって思う」
私の身体の芯のあたりで、何かよく分からない熱いものが揺らめいた。
ひたひたと潮のように押し寄せて来るものがあった。
どんな臭いセリフよりも、どんな綺麗な歌詞よりも、感情の波がうねる。
その感情の名前は、よく分からない。
「……好きだ、悠」
そのままゆっくりと、大和の顔は私の顔に近付いてきて。
今までにないような、心のこもった口づけを、落とされた。
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