343人が本棚に入れています
本棚に追加
そんな私の考えが分かったのか、ハンディさんはくすくすと目じりにシワを寄せて笑った。
「ふふっ……神崎様は、以前お会いした時よりも分かりやすくなりましたね」
「えぇ!嘘ですよ」
「嘘などではありません。とても感情豊かになられたと思います。以前も魅力的でしたが、さらにその魅力に艶が増しました」
「ど、どうも?」
そんな言葉、聞きなれていないからどう返答していいのか分からない。
気恥ずかしいような、申し訳ないような、落ち着かない気持ちになる。
「瑠璃様はロシアに帰って来た玲央様を見たとき、大変驚いていました」
「え?」
「瑠璃様以外の前では、常に無表情で何を考えているか分からない方でしたが……それ以上に、笑っていたことに驚かれていましたよ」
「玲央が笑う?それはいつものことじゃ?」
「いいえ、神崎様に出逢ってからです。それまでの玲央様は決して人に感情を見せる方ではなかった。喜怒哀楽、すべてが無だったのです」
そういえば、前にもハンディさんは玲央が怒っていたとき、すごくビックリしていたっけ。
でもさっきだって玲央はかなり怒っていたし、その後すぐに悲しそうな表情にもなった。
「ですから本当に、神崎様には感謝しております。玲央様を孤独から救ってくださったこと。玲央様の感情に音を付けてくれたことを」
甘くて、セクシーな、笑顔。
心地いいハンディさんの声は不思議と、心に沁み渡っていくみたいだ。
「……だからどうか、いつまでも玲央様のお傍にいて下さい」
ズキン、心臓が痺れる。
「あなたの笑顔はみなさんを幸せにします。だからどうか、ずっと笑っていて下さい」
ドクン、脈が速くなる。
「もし生まれ変われるなら……私は神崎様と、違った形でお会いしたかった……」
ギリ、胸がえぐられる。
そんな…そんな、何とも言い表せないほどの悲痛で悲しげな苦笑を、見せないで。
これ以上、私に誰かを傷つけさせないで。
ハンディさん、あなたのことだって傷つけたくなんかない。
だから……もう、何も言わないで。
.
最初のコメントを投稿しよう!