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「で、本当にやるんだ?」
目の前には、影のように黒い笑いを張り付けている柚夢。
なぜかソファの上で正座をさせられている私は、いよいよ足に限界が。
だって、この質問をかれこれ30分は繰り返し聞かされているような気がする。
「数学パズルと男装はまだいいとするよ?でもね、コスプレってどういうこと?どんなコスプレをするつもり?」
「……アンケート用紙にナースとかメイド服と書かれていたのを覚えています」
「へぇ。それを悠は惜しみなく大勢の虫けら共に見せつけるんだね?」
「む、虫けら共って……」
昼間の電話では突っ込まなかったけど、はっきり言われると恐ろしくなる。
幸いと言っていいのか、大和は仕事が長引いていてまだ帰ってきていない。
さっきっから一言も発していないけど、玲央はしっかり私の隣に座っていた。
煌たちも本当は私の家に押しかけようとしたらしいけど、今年のコンクールの曲決めで時間がなく。
今日はすべて柚夢に任せると言って、諦めてくれた。
逆に柚夢だけを目の前にするのも、かなり心臓に悪いような気がする。
「どうして悠がそんなことをやらないといけないのか、意味が分からないんだけど?」
「いやぁー別に私1人がやるわけじゃないし、問題ないかと」
「たとえ悠だけじゃなかったとしても、結局虫けら共は悠だけを楽しみにしてるんだよ。許せないね」
「ん。許せない」
お、玲央が喋った!
「どうしてもやるっていうなら、僕もそこまで鬼じゃない。考えはする」
「考えるといいますと?」
「文化祭をめちゃくちゃにするとか」
「それだけは勘弁して下さいっ!っていうか、絶対に来ないでよ!」
「は?何言ってるの、悠。虫けら共には見せて僕たちには見せないってどういうこと?それこそ許せないんだけど」
なんて過保護なお兄様なんでしょうか。
束縛とか自由を奪われるのが嫌いな私にとって、こういうのはいくら柚夢でも嫌だな。
「マジでみんなして来ないでよ。どう頑張っても目立つし、一緒に暮らしていることがバレる可能性もないとは言えないんだから」
「そんなことはどうでもいいね。悠のコスプレ姿を僕たちが見ないわけにはいかないもん」
いかないもん、って。
そんな可愛く言われたって。
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