343人が本棚に入れています
本棚に追加
ふわっと、温かいものに包まれた感覚がして玲央の匂いが微かに漂ってきた。
静かで落ち着く、自然な玲央の匂い。
「寝顔、可愛い」
「玲央、変なこと考えてんじゃねぇよな?」
「ん」
「あぁ……ちょっと僕、やばいかも。悠の寝顔なんて見たの、久しぶりだから」
「やっぱりここで寝かすんじゃなかった。生き地獄じゃねーかよ」
「はは、確かに」
私の頬を撫でる指は、1つだけじゃない。
今にも寝れそうなのに、3人の温もりをずっと感じていたくて。
何とか、意識を繋いでいた。
「……俺、怖い」
「玲央?何が怖いの?」
「悠と、離れること。いつも、怖い。少しのことでも、怖くなる時が…よくある。毎日、帰りが遅いことも」
「俺もその気持ち、よく分かる。迎えに行くって言っても誰かに見られたらまずいからって言って聞かないし。かと言ってあまり縛り付けるのも悠は嫌だろうしな」
「それはそうだよね。いくら僕たちが悠を想っていても、悠には悠の自由がある。……僕、たまにうざい時あるなって自分でも思うくらいだし」
何だ、きちんと自覚していたんだ。
「それでも心配せずにはいられない。一度、悠と離れた苦しみを経験したから、なおさらね」
「……あぁ、そうだな」
それまで、温かく感じていた柚夢の温もりが急激に冷めていく錯覚に陥った。
ぐ、と胸が締め付けられるように痛くなり、じわじわと熱いものが込み上げてくる。
私も、あの時のことを思い出すことすらまだ怖いし辛い。
柚夢を失った時の暗闇と絶望、苦しみ悲しみ、たとえ今が幸せでも過去は消えないから。
ふと、柚夢と視線が合うだけであの時のことがフラッシュバックして来そうになる。
もう、絶対にあんな思いはしたくない。
「……悠が、泣いてる」
玲央の声と一緒に、瞼に触れられた指。
自分でも気づかないうちに涙が溢れていて、頬を伝っていく感触に心が震えた。
「悲しい夢でも……見てるのかな」
「………」
これは夢じゃ、ない。
過去のこともすべて夢にはできなくて、未だに私の中にある闇が消えてくれない。
まだ彼らに話せていないことが、ある。
柚夢以外の6人には1度話したけれど、それは結果的に記憶の誤りだということに必然的になった。
6人の中で真実が、真実ではなくなった。
.
最初のコメントを投稿しよう!