第5恋

20/20
前へ
/842ページ
次へ
もうこのまま何も知らないほうがいいんだと、そう思ってる。 今が幸せなら過去のことなんてもうどうでもいいんじゃないかって。 私の中でもあの真実はなかったことにする。 たとえ私の記憶の中から消えなかったとしても、消えたと思い込むことはできるから。 それで、いい。 「悠……」 ぽとり、と雫のように呟いた玲央の声。 愛おしい。 大切。 可愛い。 好き。 言葉にしなくても、3人の体温ですべてが伝わってくる。 私を本当に心から想ってくれていることを。 だけど、どうしてかな。 私は怖いよ。 みんなは私を選んでくれているのに、その想いを拒むことも受け入れることもできていない。 その度に、みんながどんな想いをしているのか考えないようにして。 傷つけたくないと思っているのに、きっと私は無意識にどこかで傷つけている。 怖い。 みんなを失うことが。 みんなを傷つけることが。 みんなが、離れていくことが。 「悠……?起きてる…?」 「泣きすぎ、だよな」 柚夢と大和の言う通り、私の意識はしっかりあるんだけど。 今、瞼を開けて3人を目の前にしてしまうことがどうしようもなく怖かった。 だから。 「起きてる、よ……でもごめん。このままで、いさせて」 振り絞った声だけで、伝えた。 「………」 何も言わずに傍にいてくれる3人の優しさが、私の心を温める。 「あり、がとう……」 その言葉を最後に。 私はゆっくりと。 眠りの中に、堕ちて行った。 .
/842ページ

最初のコメントを投稿しよう!

343人が本棚に入れています
本棚に追加