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そして、私的には一番やりたくなかったシナリオがこのメイド服。
メイド服ってだけでも私のイメージぶち壊しなのに、その内容と来たらもう……言葉が出ない。
自分がこれからやることを想像するだけで鳥肌と汚物が込み上げて来そうになるのに。
それをあいつらに見られているのかもしれないことも含めると、本当にため息しか出てこないよ。
しかもしかも!
まさかあの遼さんと櫂さんもいたなんて……あぁ、今日で私の寿命は半分以上縮まっているだろうな。
残酷な時間が迎えに来てしまった私は、黒のニーハイソックスをしっかり上げて。
鈴付ネコ耳カチューシャを、ゆるく巻いてツインテールにした頭につけた。
「……か、かか神崎…会長!?」
「わわわわわっっ!!」
「ちょっとちょっとちょっと!!私の携帯はどこ!?写メ写メ写メ!!!」
舞台袖にいる生徒会役員や文化祭実行委員の生徒たちなどから、こんなふうに言われながら写メられることも慣れた。
でもやっぱり、私のキャラとは何一つ被っていないから、居心地が悪すぎる。
「大っ変、お待たせいたしましたぁぁぁ!!!メイド服、最後に登場して頂くのは………お待ちかねのこの人です!!!」
一度大きく深呼吸をして、目を開いた時にはもう神崎悠という人間はいない。
私は私という人格を捨てて、メイド服を着ている1人の全く違う人間となっていた。
「お帰りなさいませ、ご主人様っ」
『うおぉぉぉぉぉぉ!!!』
ん?
何だか、初めて聞く雄叫びだな。
「ご主人様……お風呂とお食事、どちらになさいますか?えっ…?わ、私でございますか?え、っと………」
口元に手を持ってきて足をモジモジさせる、って台本には書いてあったな。
声のトーンはかなり高めで猫なで声を常に意識しなければいけない。
「い、いえっ!!ご主人様に言われてできないことなど……ですが、ご主人様は遅くまでお仕事をされてさぞかしお疲れでしょう。もう、お休みになられてはいかがですか?」
『ぶほぉっ!』
『あ、あかんあかん……』
『ヤバすぎるー!!』
お願いみんな、心の中だけで叫んでください。
意外としっかり1人1人の声が聞こえていて、それを聞くたびに物凄いやりづらくなるんです。
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