第6恋

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そんな私の心の声は口に出すことも顔に出すことも出来ずに、必死に耐える。 「ご主人様を嫌いだなんてっ!!そんなこと、絶対にあり得ません……私はただ、心配で……。ご主人様が倒れてしまったらどうしたらいいか………」 萌えるメイド服を着ているのに、健気な発言がさらに萌えるだって。 言葉の意味も男心も全く理解できないんだけど。 「私はご主人様を心からお慕いしております。1人占めしたい……なんて思ってしまうんです。あっ…も、申し訳ありません!!私、余計なことを……」 神崎悠だとしたら、絶対に思わないようなことなんだけどね。 「私は永遠に、ご主人様のお傍におります」 そう言って、これまでで一番の笑顔を作ると。 一瞬の静寂が体育館を包んだ後すぐに、花に群がる夏の蜂のように、一斉にうぉぉぉぉ!!っと歓声が挙がった。 物凄いフラッシュの数で目を開けているのが辛くなり始めたころ。 「……あ、ありがとうございましたー!!!」 ようやく、司会者がバトンを受け取ってくれた。 いつものように司会者の言葉に笑いで返して、最後に「にゃぁ~」と言いながら猫のポーズをするサービスをしてみれば。 それはもう、ちょっとサービスをしすぎたらしい。 複雑な感情を抱えながら手を振り、ステージから舞台袖に戻るときに。 体育館の真正面玄関以外にある、両サイドの4つの扉のうち、左の後ろの扉から。 真っ直ぐ私だけを睨むようにして見る、“彼ら”の視線と。 一瞬、本当に一瞬。 合ってしまったことは。 なかったことに、したい。 .
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