343人が本棚に入れています
本棚に追加
ムカつく。
「……へぇ。悠、僕たちに嘘ついてたんだね」
ムウの言葉がやけに大きく頭の中で響く。
この苛立ちが自分のものだけじゃなく、隣に立つ奴らも感じていることが、さらにムカつく。
どう足掻いたって、悠は俺“だけ”のものにならない。
その笑顔も。
その心も。
その優しさも。
その声も。
その身体も。
全部、悠から引き剥がして俺のところに持って来ることができない。
ステージの上で満面の笑みを惜しみなく曝け出している悠を見ていると、自分が惨めになってくる。
悠はただ、この学校の生徒会長として最初で最後の文化祭を生徒の思い出に残るモノにしたかっただけ。
責任感が誰よりも強くて、今日という日のためにいつも遅くまで準備をしていた。
どんなに帰りが遅くなっても、次の日の朝には必ず一番早く起きて俺たちの朝食を作って待っていた。
何でもすべて、完璧にこなす悠。
だから、あんな笑顔を浮かべている悠は何も悪くないし、むしろ当然のことだ。
あれだけ頑張って準備してきた文化祭が無事に終わって、嬉しいに決まっている。
それなのに俺は、悠の喜びを同じように感じられない。
むしろ、こんなに大勢の人間から支持されていながら、誰にも媚びず、誰のものにもならない悠にムカついている。
いつも俺の知らないところで、こんな笑顔を簡単に振りまいているのかと思ったら。
胸が火傷しそうなほど、熱くなった。
.
最初のコメントを投稿しよう!