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どうしようもないことを、バイクに寄りかかりながら考えていると。
「おい、見ろ」
それまで不気味なほどに無口だった築茂が道路のほうを指さした。
築茂の指の先を追ってみると、少ない街灯しかない道を歩く、1つの人影。
すらっと細い体系、普段は腰まであるサラサラの黒髪はゆるく巻かれていて、キレイな歩き方。
「悠!!!」
俺は、誰よりも早く悠の元へと走り出していた。
だけど何度も悠の名前を呼んでいるのに、悠はイヤホンをして音楽を聞いているらしい。
全く、俺の声は届いていなかった。
「こんの……バカ女!!!」
まくっているYシャツから出ている、白くて細すぎる腕をぐっと俺のほうに引き寄せる。
反対の手で悠の耳に差し込まれていたイヤホンを引っこ抜いて、俺の声だけを悠の身体に振動させた。
「…大、和……?」
やっと、俺を見て俺の名前を呼んでくれた悠。
街灯の下で露わになる悠の透き通った白い肌、触り心地のいい頬、真っ直ぐで綺麗な瞳、通った鼻筋に形のいい唇。
そのすべてが、今、俺をこんなに苛立たせていて、こんなに苦しくさせている。
本当は今すぐにでも俺の中に閉じ込めたかったけど、すぐに追いついてきた奴らによって、それは阻まれた。
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