第7恋

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悠は戸籍上の誕生日は10月25日とされているらしいが、それは本当の誕生日ではない。 その誕生日は、悠が孤児院のポストで発見された日だからだ。 生後約2週間だったが、実際には何日の何時何分に生まれたのかなんて誰も知らない。 それを話してくれた時の悠は。 『誕生日なんてどうでもいい。私が今ここにいて、今笑えているんだから。過去のことなんてどうでもいいし、今と未来を大切にしたいんだよね』 屈託のない、無邪気な笑顔で言っていた。 『だからお願い。私の戸籍上の誕生日が来たとしても、何も言わないでほしい。私は毎日、新しい自分でいるつもりだから。毎日が誕生日なの。そしてみんなの笑顔が「おめでとう」の変わりなの』 その言葉通り、悠は俺たちの誕生日を祝ってくれても俺たちが悠の誕生日を祝うことはできない。 確かに日々、いろんなところで悠の存在の有難さを実感しているし、出逢えたことに感謝している。 何より、悠からの『お願い』は誰も断れなかった。 たとえ俺たちが祝いたかったとしても、悠自身がそれを望まないし嬉しく思わないから。 悠に喜んでもらえなければ祝う意味もないし、余計に気を遣わせてしまうだろうから。 「ほら、何も答えられないだろ?それだけ、お前はこいつのことを何も知らねぇんだよ」 逢坂の唇を噛む悔しそうな顔に優越感が一気に押し寄せてきた。 「ちなみにこいつの好きな食べ物はビターチョコレート。それもすんげぇ苦いやつ。好きな色は何色にでも染められる白。嫌いな食べ物は数えきれないほどっていうか、食わず嫌いだよな」 俺はすっかり自分の立場を忘れて、逢坂と俺の差を思い知らせるためだけに口を動かした。 .
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