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優しくて穏やかで、そしてどこに行くあてもないキスだった。
温かくて親密な気分になっていて、そのことを何かのかたちで残しておきたいと無意識に考えていたのかもしれない。
私たちのキスは、昔からそういうキスだった。
「っ……柚夢!本当に早くしないと……」
「……うん、そうだね。今日はここらへんでやめとく。でも悠、1つだけ約束して」
「なに?」
「僕の前以外で、絶対にそんな顔しないで。僕以外の男にそんな顔、見せないで」
そんな顔って言われても、私の顔は私には見えないって言ったのは柚夢なのに。
そんなことを考えながらも、曖昧に頷いた。
「よし、それじゃ早速これに着替えて」
と言いながら渡されたのは。
「………なんですか、これ」
「迷子の子ネコちゃんセット」
「誰の趣味だよこれ」
「玲央、の後ろに隠れた全員の名前」
「あははー……うん、納得」
あまり時間をかけると待ってるやつらに怪しまれるから、私はさっさと服を脱ぎ始めた。
「あのさ、悠?」
「んー?」
「何で僕の前で堂々と着替えようとしてるの?普通、女の子なんだから恥ずかしがって出て行ってよ!とか言うでしょ?」
「あぁ。別に柚夢だからいいかなって。昔は一緒にお風呂に入っていたくらいだし。裸だって見てるし」
「はぁ………複雑すぎるんだけど」
「見たくないなら出ていいよ。ちゃっちゃと着替えるから」
「………うん、いろいろとまずそうだから目は瞑っておく」
本当に目を瞑った柚夢を気にすることもなく、私はデザインに半ば引き気味になりながらも数十秒で着替え終えた。
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