第8恋

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やっと、数学の試験対策プリントだけでも終わらせた頃には窓の外は薄暗く、すべての物が眠りに落ちたようにひそやかだった。 「あーあ、もうこんな時間じゃん。夕飯は食べて行くよね?」 「もっちろん!」 「あれ、柚夢はまだ帰ってきていないのかな」 いつもなら帰ってきているはずの時間なのに、柚夢の姿を見ていない。 携帯を取り出して中身を見ると、今日は遅くなるという内容のメールが入っていた。 「柚夢、遅くなるみたい。明日も学校あるんだし、今日は家に帰りなよ」 「分かってるって。レオレオと大和は?」 「玲央は部屋で漫画描いてる。大和はサックス吹いていると思うよ。ご飯が出来てから呼ぶからまだいいよ。すぐ作るから待ってて」 「へいへーい」 材料を確認して、今日はシチューを作ろうと決めた。 いつもかけっぱなしのオーディオが一度止み、空雅の好きな曲をセットしたらしい。 アップテンポの曲が流れだしてきた。 「そういえば、愛花とデートとかよくしてるの?」 「んー?でも休みの日は愛花、ほとんど部活だし。部活がないときに一緒に帰ったり、その帰りにご飯食べに行くってくらい」 「付き合ってもうすぐで1年になるんでしょ?もう少し進展してもいいんじゃない?」 「……そう、だよなぁ。ま、愛花と考えてみるわ!」 野菜を切りながら話しかけても、あまり長くは続かない会話だったらしい。 というか、無理やり終わらせられたような気もするけどあまり深く関わらない方がいいかな。 空雅の好きな曲と、私の刻む包丁の音が、無意識にピッタリ合っていた。 .
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