第8恋

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言葉がここにある限り、下らなさもやってくる。 「神崎、もっと自分の可能性を考えてみたらどうだ?まだ本格的にやりたいことがないなら、大学で見つけることもできる」 だけれども沁み込んでいく言葉なんて、もうどこにも残っていないんだろう。 「お前の入学を心から望んでいる人が大勢いる。たくさんの人がお前に期待をしている」 少なくとも、ここにはない。 「最初から決めつけないで、もう少しいろいろ知ってみるといい。夏休み中にオープンキャンパスに行ってみるだけでもいい。何かを感じるかもしれない」 つまらない言葉だらけで、私の心はささくれだらけになっていく。 “能力”“期待”“可能性” 私にはそんなもの、いらない。 私が欲しいんじゃなくて、私を利用して誰かが欲しいものを得たいだけ。 私の気持ちを優先することなんて、絶対にない。 確かに物事は違った側面から、またはいろんな角度から考えたらいいのかもしれない。 そうすれば、真っ二つになったその新鮮な果肉を味わえるのかもしれない。 レモンの輪切りを、リンゴの輪切りを味わえる。 外側を見て、思ったり考えることよりも。 でも私に期待している人たちは私の外側しか見ていないから。 私に変な期待や願望を押し付けるのは、やめてほしい。 .
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