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あぁ、と納得した様子で頷いた男の人。
「もう少しでお昼だし、そしたら会えるかなと思って。ここで待たせてもらってました」
「そうだったんですか。ではやはり、ここの大学の方ではないんですね」
「はい、勝手にすいません」
もう一度頭を下げれば、くすくすと笑われた。
「謝ることはないですよ。ただ私は、さっきあなたが歌っていた歌声がとても綺麗で、こんなに素敵な声を持っている生徒がいたら知っているはずなので」
「あ、聞かれてたんですね……お恥ずかしい」
「勝手に聞いてしまってすいません。私はここの声楽専攻なんです」
「そうだったんですか。声楽専攻……」
煌と築茂は弦楽専攻、日向は器楽専攻だったっけ。
専攻が違くても3人のことを知っていたりするのかな?
「あの、弦楽専攻にいる春日井煌と橘築茂をご存知ですか?」
聞いてみると、また少し目を見開いた男の人。
「もちろん知ってますよ。彼らは大学内ですごく有名ですからね。でも彼らがどうかしましたか?」
「私が届け物をしに来た人たちなんです。あともう1人、今年入学した荻原日向もなんですけど」
「荻原日向……学年トップで入学したという1年生ですか。存じてますよ」
「本当ですか!?すごいですね……」
「私がすごいのではなく、有名な彼らがすごいんです」
な、なんと謙虚でいい人なんだ。
「あ、自己紹介がまだでしたね。私はS大学3年の伊波櫂(イナミカイ)と言います」
「櫂、さん。素敵なお名前ですね」
私の言葉にありがとうございます、と微笑んだ櫂さん。
「私は、M高校3年の神崎悠って言います」
私も自己紹介をしたら。
「神崎、悠………?」
あ。
そうだ……私、ここの大学や音楽関係の人の間ではかなり知られているんだっけ。
煌や築茂と初めて会った時も知られてたし、もしかしたら言わないほうがよかったかもしれない。
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