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私の噂を聞いていて、私だと知った後と知らない前でとの態度が明らかに変わられるのはちょっと嫌だし。
櫂さんは、どんな反応をするんだろう。
「……あなたが、神崎悠さんでしたか。てっきり私と同じくらいの年齢かと思ってたので、まだ高校生だったとは思いもしませんでした」
にっこりとほほ笑んだ櫂さんの言葉に、すごくほっとしていた。
あまり特別扱いされるのとか好きじゃないから、普通に接してくれるのは素直に嬉しい。
「よく言われます。私ってそんなに老けてます?もうちょっと高校生らしくいたいなぁ……」
「ふふ、違いますよ。大人っぽいってことです。噂では聞いていましたが、雰囲気が思ってたものとちょっと違いますね」
「え、どんなイメージだったんですか?」
「飛び抜けた才能と技術と表現の持ち主だと聞いていたので、もっと独特の雰囲気の方かと思っていましたが……」
土曜日の講義や午前中の部活終了を示すチャイムが、大学内に響くと同時に。
「とても、可憐な優しい雰囲気の方でした」
櫂さんの癒し声が、鼓膜を揺らした。
ぱっと見は普通の黒だけど、よく見ると灰色をしている櫂さんの瞳。
綺麗な弧を描いている唇がちょっとセクシーで、不思議な人、と頭にインプットされた。
「ありがとうございます」
私も微笑んで、ベンチを立った。
「そろそろ、彼らが出てくると思うので連絡、してみます」
「それがいいですね。お届け物もあるみたいですし」
「はい!あ、でも私は年下なので敬語じゃなくて大丈夫ですよ?」
「すいません、これは癖なんです。年齢関係なく誰にでも敬語になってしまうんですよ」
「へぇ……でも櫂さんに似合ってます」
「ふふ、初めて言われました。それより、春日井先輩方とはどんな関……」
「悠!!!」
櫂さんの声を遮って、後ろからよく聞きなれた声が私の名前を呼んだ。
ぱっと振り返れば、ちょっと焦った様子で走ってくる煌とその後ろに日向。
足早に歩いているのは築茂だ。
「煌、日向!よかったぁ、見つかって」
「ごめんな、音楽室の場所も教えていなかったことにさっき気付いてさ。慌てて探したよ」
「ううん、ここで待ってたから。櫂さんとお話してた」
「櫂……?」
私も煌たちのもとに駆け寄ると、安心した様子で胸を撫で下ろした。
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