343人が本棚に入れています
本棚に追加
/842ページ
S大学を出て駅に向かう途中、ポケットの中に入れておいた携帯が震えた。
画面を見てみると、珍しく玲央からの着信。
「玲央!やっほー、どうしたの?」
『ん。悠、今どこ?』
「S大学の帰りでこれから駅に乗るところ!」
『そっか。俺も、編集部の用事、今終わった。お昼、まだ食べてない?』
「あ、まだだよ!合流してどっかで一緒に食べよっか」
『ん、そうしたい。Y駅で降りて。そこの近くに、いるから。着いたら、電話して』
「分かったよー!じゃ、後でね」
電話を切ってすぐに、ふふと頬が緩む。
玲央もだいぶ日本語が上手になって、前は単語単語だったけど、今はスムーズに話せるようになった。
それだけ玲央が言葉を話しているということが嬉しくて、そんな成長をすぐ近くで見ていられることに優越感がわく。
って、私は玲央の母親か。
「……あながち、間違ってもないか」
そんなことを考えながら、行きとは違う切符を買って電車に乗り込んだ。
Y駅で降りて、玲央に電話をかけると南口にいるらしい。
言われた通りに向かえば、七分袖のマルチボーダーTシャツに、シンプルなデニムパンツ、ブラウンのミドルブーツを着こなした玲央がいた。
191㎝の高身長にあのルックスだから、かなり女の子からの視線を浴びている。
本人は全く気付いていないっていうか、すぐに私に気付いて嬉しそうに手を振った。
相変わらず藍色を含んだ黒髪の前髪は、左目を覆い隠している。
ユーモアな雰囲気に包まれている玲央を見ると、普段の甘えん坊の猫みたいな態度が嘘のようだ。
「お疲れ、悠」
「うん、玲央もお疲れ様。どこに食べに行く?」
「いいお店が、あるんだ。こっち」
さりげなく私の手を握って身体を引き寄せる玲央に、私は微笑みながら頷いた。
.
最初のコメントを投稿しよう!