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とは言っても、やっぱり全国の学生やサークルの人たちの歌声を聴きたいのは当たり前で。
今日の放送日を知ってから、ずっと楽しみに待っていたのだ。
ただいまの時刻、17時43分。
放送開始は19時からだから、ギリギリ最初から見られるかもしれない。
すでに心は臨場感に駆られていて、必要最低限の行動で昇降口へと辿り着いた。
ローファーを取り出してシューズと入れ変える。
足をローファーに入れた瞬間、後ろからバタバタと走る音が聞こえてきた。
「悠!!!」
明るい声で私を呼んだのは、部活の帰りなのか汗びっしょりの陽斗。
「陽斗!?部活は?」
「今休憩中。悠が見えたから、バイバイしようと思って全力疾走してきた」
「マジで!?休憩中なんだから休憩しなきゃ~」
「悠と会えたから十分休憩になったよ!今から帰るの?」
「うん。ちょっと急ぎ」
「そっか、止めちゃってごめんね」
「ううん!全然そういうのじゃないから。陽斗も部活、頑張ってね」
「ありがとう!」
汗を一生懸命拭う陽斗に手を振って踵を返したけれど。
「……あ、悠!」
「ん?どうしたー?」
「1つさ、聞きたいことがあるんだけど」
もう一度呼ばれて、振り返った。
「悠ってさ、本当に1人暮らしなの?」
私が1人暮らしをしていることは結構知られていて、陽斗みたいに聞いてくる人も少なくはない。
今はもう1人じゃないけど、それは愛花しか知らないから。
「うん、そうだよ」
私はいつも通りの答えを、いつも通りの表情で言い切った。
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