第2恋

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駅へと走って向かうけれど、午後から雲行きの怪しかったおかげでぽつり、と小雨が降ってきた。 これなら走っていても変な目で見られないだろうから、丁度よかったかも。 陽斗にも言ったように、風舞先生や他の誰にも私が3人と住み始めたことは言わないでおこう。 いろいろ想像されたり噂されたりするだけじゃすまなくなるかもしれないし、何よりも私がめんどくさいから。 これからも1人暮らしだってことにしておけばいっか。 息を切らせながら駅の中へと入り、定期でホームの中に入った。 ゆっくりと空を見上げると、さっきよりも大粒になった雨が降ってきて私の心の鈴の音を鳴らす。 楽しいでしょ? 心地いいでしょ? 素敵な音色でしょ? 世界は面白くて素敵な場所でしょ? と、歌ってくれる。 そうだね、今を生きることがとても楽しいと思えるよ。 晴れた日よりも、美しい音色が世界をうづめている世界のほうが、生きやすく思えるから。 雨の匂いと音色を全身で感じながら、目を瞑って鼻歌を歌っていると。 たくさんの視線を、感じた。 ………あらま、私の悪い癖が出てしまっていたらしい。 ホームに立つ人々からさまざまな視線が注がれていることに気付いて、思わず顔を地面に向けた。 圧倒的に男の人からの視線が多いし、こんなところを煌や日向に見られたら叱られる。 雨のせいでちょっと透けてしまったYシャツや、濡れてしまった髪の毛。 そんなことに今さら気付いて、慌ててカバンの中からタオルを取り出した。 緑色の生地に可愛らしいクマの刺繍がされた、ハンドタオルは。 いつの日だったか、築茂が何の前触れもなく『やる』と差し出してきたもの。 その時の築茂の表情を思い出すだけで、顔面崩壊しそうだ。 カバンに付けているキモカワイイキャラクターのストラップは。 去年の夏祭りで、大和が射的で取ってくれたもの。 必死に私も狙っていたのに、全部持っていくからキーキー言っていた私に、大和は全部くれた。 あの時の大和の不器用さというか、照れ隠しにはちょっとドキっとしたっけ。 ほんの少しのプレゼントが、とても大切な想い出を身に着けているようで。 今はこの場に1人でも、いつも彼らがそばにいるような気になる。 ぎゅ、とハンドタオルを握りしめながら電車が来るのを待った。 .
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