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いつもの駅で降りて、改札口を通ると。
「悠!!」
傘を差したスーツ姿の柚夢が、立っていた。
「柚夢!?どうしたの?」
「傘、持っていないと思って。仕事終わったついでに迎えに来た」
「ありがとう!助かったぁ」
相変わらず甘い笑顔で微笑む柚夢の手元には、男用の紺色の傘1本だけ。
「あ、れ?1本だけしかないけど?」
「そりゃもちろん、相合傘して帰るために決まってるでしょ?さ、行こう」
そう言って差し出された、手。
私はふっと頬を緩めながら頷いて、その手を取った。
1つの傘の下に柚夢と肩を寄せ合って歩く帰り道は、雨のせいでもあるのか。
すごく、心地よかった。
「ところで、悠」
「なに?」
「そんな格好でここまで来たとか言わないよね?」
「………もう乾いたと思います」
「いいえ、乾いてません。そんなふしだらな格好でよく人混みにいれたね?悠の姿を見た男共の目、全部潰したいよ」
こ、こわっ!!!
にっこりと目が笑っていない柚夢に、私は嫌な予感しかしない。
「今日のブラジャーは黒なんだね。誘ってるの?」
「黒って好きなんだよね」
「……あのさ、そこは『バ、バカじゃないの!?何言ってんの、この変態!』っていうところだと思うんだけど」
「『バ、バカじゃないの!?何言ってんの、この変態!』……これでいいでしょうか」
「………本当、悠には敵わないな~」
だって、柚夢に私のブラジャー姿なんてとっくの昔に見られてるし今さら恥ずかしがる意味がない。
なんて言ったら、また変なこと言われそうだからお口はチャック。
「悠、頼むからさ。ちょっとは危機感持とうよ」
「え、柚夢は危険じゃないから大丈夫だよ」
「その自信ってどっから出てくるの?」
「柚夢の理性」
「……ねぇ、バカにしてるのか試してるのか分からないんだけど」
「どっちでもないんじゃない?」
くすくす、と私が笑えば、柚夢も参りましたと肩を揺らした。
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