第2恋

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こんなに静かに怒りを現している煌を見るのは初めてで、どうしたらいいのか分からないから。 掴まれていない腕をそっと煌の腰に回して、額を煌の背中にくっつけた。 「……煌」 びくっと僅かに身体が震えて、少しはいつもの煌が戻ってきたかな。 私は構わずに、ぎゅーっと煌の服を握りしめて口を開いた。 「煌、私は大丈夫だよ。何もされてない」 「何も……されてない?」 「あ、いや…えーっと、さっきのは本当に隙を突かれたって言うか、私がバカだったと言うか…」 回した私の腕を優しく撫でる煌に、何とか誤解を解こうと必死に言葉を考えるけど。 何を言っても言い訳にしか聞こえないし、うまく説明ができない。 「と、とりあえず!その……早く家に帰って、玲央たちにご飯作らなきゃ」 と、本音を言えば。 「ぶはっ」 煌が突然吹き出して、目の前にあった背中は180度回転したと思ったら、煌の腕に包まれていた。 ふわっと香る、煌の匂いはダージリンティーの優しい香り。 耳に当てられた煌の胸からは、激しく脈打つ心臓の音。 「はぁー……」 と、安心したような、後悔したような、複雑な感情の入り混じったため息。 「本当に悠って、バカだよね」 「えぇ?今それ言わなくてもよくない?」 「いや、言う。どうしてこんな時にそんなこと考えられるのか分からない」 「え、ずっとそのことしか考えてなかった」 「………もう、こっちの気も知らないで」 遼さんがいることなんて忘れて、私も煌の大きくて広い背中に腕を回した。 すごく心配してくれたことも、すごく怒っていることも分かるけれど。 やっぱり、大人だけどどこか抜けていて笑い上戸の煌が好き。 「煌、いい匂い」 「……そういうこと、言うな」 「本当のことだよ?」 「だからねぇ……」 ちょっと緩んだ腕の隙間から煌を見上げて、くすくすと笑い合った。 .
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