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苛立ちきって毒蛇のような殺気立った心になっている煌は、何度も何度も私の口内を犯す。
舌がもつれそうになるほど、荒々しく動き回るそれに、息も出来ない。
「はぁっ…ん……」
電気のように痺れるキスをして、もう苦しくなった私は限界の意を込めて煌の胸を押すと。
「…はぁ…はぁ……」
最後に1度、私の唇を甘噛みしてから、やっとお互いの唇に距離が出来た。
「消毒、しておいたから」
「……うん、ありがとう。早く、帰ろう?」
「そう、だね。みんな心配してるし。全員、悠の家で待っているように言っておいたから」
「そっか。それじゃぁ急ごう」
「………あぁ」
やんわりと微笑んで、煌の手を優しく握り締めながら、煌の車へと向かった。
車に乗り込んで、窓から夜空を見上げる。
月が真っ黒な空に小さく光り、沈む街並みに真珠みたいに映えていた。
車内に流れる、優しくてナイーヴで、質のいい悲しみをさえ漂わせた新鮮なベートーヴェン。
これもまた、遼さんとは全く似ても似つかないな、なんて。
春日井兄弟に踏み込んだら、ダメかな、と深く考えてみたりした。
煌も何も言わないから、私も何も言えない。
聞きたいけど、今の私にはそんな資格はないし、余計に傷つけるだけかもしれないから。
本当は早く帰ったら、ゆっくりとお風呂に入ってピアノ弾いて、まだダルい身体を休めたいところだけど。
煌にも、家で娘の帰りが遅いのを待つ父親のようにそわそわと待っているであろう彼らにも。
今日のことを説明しなければ。
………全く、あの人は本当にめんどくさいことをしてくれたよ。
今日、彼らに説明したとしても明日学校に行けばあちらこちらから嫌な噂は耳に入るだろうし。
あの、不気味な風舞先生にも事情聴取されそうだ。
どうか少しでも軽くありますように、と穴の中へ身体が落ち込むような暗い気持ちを奮い立たせた。
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