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神崎悠、17歳。
ただいま、人生の絶壁に立たされています。
「……今、何と言った?」
咽喉の奥から搾り出したような、ぞっとするほど低い築茂の声。
私は冷や汗をだらだらと感じながら、身体を強張らせていた。
「えっと、起きたときにはキャミソール1枚と下着だけでした。しかし何もしていません」
棒読みで淡々と述べるけれど、目の前に並ぶ彼らの顔にははっきりと『怒り』の文字が浮かんでいる。
「築茂、みんな……悪い。悠は本当に何も悪くないんだ」
と、煌の自嘲気味な笑みが心を痛める。
納得のいかない表情で煌を責め立てるように睨む築茂と大和と柚夢。
そんな視線を受けながら、煌はゆっくりと話しだした。
「春日井遼は、俺の実の兄だ。つい最近までイギリスでカリスマ美容師として活躍していた」
おぉ、私の予想は大当たり。
「あいつは俺が10歳の時、高校を卒業してすぐに内地に仕事を見つけて出て行った……そう、思ってた。でも実際には違かったんだ」
前にも、話してくれたことがある。
煌のご両親は煌が7歳の時に離婚していて、お兄さんが家を出てから、お母さんを自分が守らなきゃと思い始めたって。
「本当は、高校を卒業してすぐにイギリスの美容専門学校に留学していたらしい。家の貯金をほとんど、使い果たして。………それを、つい最近知ったんだ……」
細い金属の線を想わせる、繊弱な微かに震えを帯びた感じの声。
心を締め付けられるような息苦しさを、感じる。
「今思えば、おかしかった。母親は毎日、朝から晩まで働いて身体壊して……本当に、気付くのが遅すぎた。あいつは、儲かってるくせに家には一切お金を入れずに女と遊び歩いて…突然、帰って来たんだ」
あの容姿と性格からなら、女性の客はたくさん付くだろうし、あの部屋と高級外車を見れば金持ちなことはすぐに分かる。
今まで育ててくれた親に恩返しもせずに、すべて自分の欲望にお金を使うなんて。
あの男、ちょっと懲らしめてやらないとな。
「今週の月曜日の朝、あいつから電話がかかってきたんだ。『お前の大切な人って、神崎悠さん?』って」
あははー……それで私に矛先が向いたんですね。
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