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「俺は一瞬で嫌な予感がした。だからあの日、悠に慌てて電話をかけたんだ。あいつの女癖の悪さは高校の時からだし、絶対に悠と会わせたくなかった……!」
うん、私も会いたくなかったね。
あの寿命が縮まるような鬱陶しい喋り方と、常識知らずの態度には呆れたし。
煌のお兄さんじゃなければ、股間に一蹴り入れてたわ。
金銭的に厳しい音楽大学に入れたのも、煌の努力で奨学金をもらえるからだ。
常に学年トップを維持し続けることで、授業料などが無料で受けられている。
絶対に今の位置から堕ちてはいけないというプレッシャーにも負けず、煌はここまでやってきた。
「だからっ…悠とあいつが、あんな格好でキスしているところを見たとき………あいつの首を絞めてしまいたいような激しい怒りに駆られた!!」
傷ついた獣のような呻き。
髪の毛をぐしゃりと掴み、項垂れる煌の姿はひどくやるせない心持ちになった。
「……煌、本当にごめんなさい」
「どうして、悠が謝るんだよ…?」
「煌に言われた通り、見かけたらすぐに逃げるべきだった。絶対について行っちゃいけなかった。本当に、ごめんなさい」
こんなことで煌の心の傷を癒せるとは思えないけど、こうでもしないと私が耐えきれない。
たとえキス1つだけだったとしても、何をされてもおかしくなかった状況にいたんだし。
煌だけじゃなくて、実際に現場を見ていない彼らだっていろんな感情がうずめいているはずだ。
「はぁー……また、俺たちは煮え切らない想いをする羽目になるんだな」
と、うわ言のように呟く大和。
「でも悠が無事でよかったよ。それが何より。本当に……キス以外は、されていないんだよね?」
「うん」
こんなときでもやっぱり日向の声は、軽く柔らかで。
本当は私が寝ている間に何が起こっていたかは分からないけど、とりあえずヤっていないことは確かだから頷いた。
「でも、悠の下着姿を見られるなんて……許せないね」
「ムカつく」
「レ、レオレオが暴言吐いた!?」
厳しい言い方をする柚夢に、空雅が玲央を信じられないという目で見る。
部屋いっぱいに張り裂けるような殺気が満ち溢れている中。
私は、あの常識知らず野郎にどんな仕打ちをしようか、ということだけに思考を巡らせていた。
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